ワインにまつわる話と小さな世界

ワイン庫の会話     第4夜

   
 

93年の
シュタインモルゲン   :  おはよう。ずいぶんねむったなー。
 (以下Dと略す。)

82年の
シャルムシャンベルタン:  この前、君と話したのは確か4月の終わりだったよな。いくら世
 (以下Fと略す。)   の中不況といってもこれだけ起こされないで済んだことは本当にヒ
             マだったんだよな。
                              
D: 何とも言い様がないよ。ただ俺達に出来ることは、その時まできちんとおいしくなって
  いることだと。

F: それはそうとこの前の僕の質問に答えてくれよ。えーっと確かドイツワインではヴィン
  テージ一般的には収穫年のことで、そのヴィンテージをそんなに気になさんなということ
  だったけどそれならなんでエチケットに書いてあるんだい。
         
D: そうだ。でも、少し違うよ。ヴィンテージとは収穫した年ではなく、そのぶとうが花咲
  いた時がヴィンテージだから間違わないほうがいいよ。花咲かなくては実りがないのだから。
       
F: そうか、僕は82年に花咲いた実りのぶどうだから、この数字が書いてあるのか。早く
  ヴィンテージのことを話してくれよ。

D: ドイツワインは、前にも話したけど、収穫されたぶどうそのものの熟度に規定がされて
  いて、カビネットならその熟度が決まって いるのだよ。あれほど寒い国で、葡萄が育つ
  ギリギリの環境で造られるのだから満足にできない時だってあるさ。でも、その時のその
  熟度がなければ肩書き付きワインは造れないのさ。だけど約二千年の知恵で何とかいいも
  のを造り続けている。その伝統を守るために、今の法律で、自然の状態で、なおかつ正確
  なものを造り続けているのだよ。その年を主張するより、その熟度に挑戦した結果を、ド
  イツワインは誇りに思うのだよ。
   君の国では畑や地域に格付けされているから、その年の天候が絶対必要なんだよ。でも、
  この絶対という表現は問題だけど、それは買ってくれる人のために必要なことで君の国も
  僕の国もワインの法律に少し違うところがあって、その国の法律ってのはその国の民族の
  哲学なんだよ。一般的にAOCワインはその土地に格付けされているから、そのヴィンテージ
  は、君の国ではエチケットに記載義務事項として書かなければならないし、僕の国ドイツ
  では、その原料の熟度が合格しているからカビネットとして販売できる。しかし、エチ
  ケットのヴィンテージは任意事項で、書きたければ書けばいいし必要なければ書かなくて
  もいいわけだ。くれぐれも言うけど、ヴィンテージとはその年の一年の天候のことだよ、
  わかるかい?

F:  少々、時間がかかるけど理解できる。そのギリギリの土地でワインを造るのはフラン
  スでも同じだよ。いいワインはいつもギリギリにところで造られる。僕のブルゴーニュで
  もボルドーでもその土地、そう、土壌と天候のギリギリの所で、それに合った品種でワイ
  ンが造られる。ワインが出来るためには、温かすぎても酸ができないし、寒すぎても糖や
  タンニンがうまく出来ないし、ありとあらゆる知恵を絞って人間が造っていることは同じ
  だ。
   だけど、この日本の国の人たちは何もかも同じ目で見ている気がするよな。フランス、
  ドイツ、イタリアと自分の好みで見てしまい、同じ比較をすぐしたがる。風土が違うとい
  うことは、何もかも違うということで、もちろん人間には変わりないけど物事の考え方も
  違うということさ。例えば僕らの国の赤ワインでも、これは若いだとか何だとか。自分の
  人生にプラスにならない表現をする。僕らは、若いワインだったら、それは渋味も酸もは
  っきりしているし少々挑戦的な味なのはわかる。またそれがおいしくなるために大切なこ
  とも。だったらそれは合う食べ物をどんどん食べながら飲む。若いワインならではと、安
  いうちにどんどん食べながら飲む。何もなくてもワインだけを口の中でもごもごやってい
  るとまたおいしくなる。年を重ねた古いワインなら、逆に、食べるものがなくてもそれだ
  けで堪能出来る。当たり前のことだけど、これがまた分かってもらえない気がする。

D: ちょっとぐらいの人は分かっているさ。あらかたはただ言いたいのさ。職業に就いたば
  かりの人はいろいろしゃべるだろう、あれと一緒さ。
   そのうち解りだしたら口をつぐむよ。こわくてしゃべれないもの。僕らでも同じさ、若
  いころはっきり表現するのは年をとってからあまり大したことないし、若いころバラバラ
  の奴は、年をとるとうまくなる。最近では、92年のシュタインベルガー君がその代表だ
  よな。最近までシュタインベルガーとしては不評だったけど、今年からまったく良くなっ
  たな。このことばかりは当たり前といえばそうだけど。最初は単調でやけに硬い味だった
  し、そういえば余韻も少なかったように思う。
   しかし、6年も過ぎてからうまくなってきた。これは普通では解らないな。この国では
  もうほとんど在庫がないだろうに、惜しいことをした気がする。 

F: 僕場合も同じさ。80年代の終わりまであまり評判は良くなかった。有名な木でも、長
  寿老骨の相がないので向こう3〜4年で飲み切ってほしいと書いてあった。まあ、その一
  行上には、一流生産者は秀逸なワインを造ったと書いてあったが・・・この国では普通の
  判断を下すよな。僕の飲みはまだ先だけど、今、本当に飲みたいのだったら、ワイン庫か
  ら上げて一週間は普通の室に置いてから飲んでほしいよ。 

D: おい、やけにお前はデリケートなんだな。

F: おいしく飲むには注意も必要さ。飲むときの温度と共にその温度に慣れさせることがそ
  のワインの味を引き出すのさ。あわててその温度にしても無理があるよ。こうすれば僕の
  持っている酸とタンニンの調和を引き出せる。皮に色がつくのが惜しかっただけで。まあ
  糖は他の年にわずかに遅れをとったせいで、香りの少ないのは残念さ。でも味は文句ない
  ぜ。

D: 解った、解った。まあ君は複雑だよね。それが君の持ち味なんだからしょうがないよ。
  それはそうと今夜は誰が上がっていくのかな。少し夜が寒くなってくると、モーゼルたち
  よりファルツやラインガウが上がっていくよな。君らブルゴーニュもこれからの季節だし
  忙しくなるな。

ートントントンと階段を下りる音ー

D :  おい、誰だい。今夜の出番は。

F :  あれれ、モーゼルの棚を通り越してザールに行ったよ。シャルツホフベルガーを取り上げたよ。

D :  おい、今夜のお客はいい客みたいだな。あれのことはあまり聞いていなかったのか?
    まあ、明日にでもよく話してみよう。

                  つづく

                                        by Hanzo Maruyama 
          


    

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